作品について
今回は栄久堂がシリーズで関わらせていただいている『疾駆』をご紹介します。
『疾駆(chic)』は、現代アート作品を制作する芸術家さんたちと様々なプロジェクトを行う、Yutaka Kikutake Galleryが刊行する生活文化誌です。
グラフィックデザイナー・田中義久さんが毎回好き放題にデザインしている、半ばエクスペリメンタルな製本ばかり…
- 表紙から本文が飛び出ている本
- 開かない本
- ページが不揃いな本
- 背表紙のない本
などなど……
毎回毎回、複雑な本ですので頭を悩ませてつくっています。
今回は製作した本の一部をご紹介。造本デザインをされる時の、ヒントの一つにでもなればと思います。
疾駆 Vol.1~Vol.7
今回は、そんな疾駆シリーズのVol.1~Vol.7まで、それぞれの本の面白い特徴をご紹介していきます。
疾駆Vol.1 ~天アンカット~
表紙の天側に10mm程度のチリを付けており、本文の天側はアンカットになっています。写真は裏表紙ですが、表表紙とは違うデザインになっており、遊び心のある一冊です。
第1号では、日本の最東地に位置する、北海道の「根室」を特集しています。
アンカット製本
本の本文の一方または三方を化粧断ち(刷り本を断裁して指定の寸法に断裁すること)をせずに仕上げる製本様式です。
今作のように天側をアンカットにする方法は、文庫本などでも見られます(比較的古い本ではよく見られると思います。手元にあったアガサ・クリスティーの文庫本[早川書房]は天アンカットになっていました)。小口側をアンカットにすれば、所謂「袋綴じ」になります。
元々、本は紙を折り重ねて綴じた簡易的なもので、ヨーロッパではページをペーパーナイフで切りながら読み進めていました。その名残もあり、例えば天アンカットにすることで、おしゃれな印象や昔ながらの良さのようなものを表現できるのでしょう。
アンカットにすると不揃いな側面になりますので、一見すると少し作業が粗いのかな?と思わせます。しかし、実際にはアンカット製本は通常の工程よりも手間とコストがかかる、こだわりの製本様式なのです。
疾駆Vol.3 ~背表紙なし+全頁袋綴じ~
本文はすべて袋綴じ、天・地・小口側に10mm程度のチリが付いています。Vol.1でも天側に10mmのチリを付けましたが、通常のチリは2~3mm程度ですので、比較的大きめのチリです。また、背表紙がなく、表と裏に芯ボールを合紙しています。
第3号では、東日本大震災で被災した「陸前高田」を特集しています。
疾駆Vol.4 ~天アンカット+色違いの本文~
Vol.1に引き続き、表紙の天側に10mmのチリがあり、本文は天アンカットになっています。表1には二つ折りをカバーのように掛けて、背継ぎ表紙のように見せています。
本文は複数の色の用紙を使用しており、16頁ごとに色を変えています。薄い緑から青、黄色へと変わっていくページ。読み進めていくのが楽しくなります。
疾駆Vol.5 ~開かない本~
読もうとしてびっくり。実はこの本、開きません。
一見通常の本に見えますが、ハードカバーの表紙が筒状になっており、その中に並製本が入っているという面白い仕様です。
本を開くと生成り色の本文。温かみを感じさせてくれます。
疾駆Vol.6 ~窓から覗く頁+天側が袋の本文~
表1には窓抜き加工が施されており、その窓から本文の最初のページが見えるデザインです。
折ったままの折丁が綴じられており、天側は袋のままになっています。袋の中面は水色がベタで印刷されており、文字などのコンテンツはありません。ページをめくる時に見える、側面の淡い水色がとても綺麗です。
疾駆Vol.7 ~ケースのような表紙+紙束の本文~
ケースのような表紙は小口側と天側が開いていて、本文が取り出せるようになっています。
本文は紙束を綴じただけのようなつくりで、閉じた状態では真ん中のページが一番飛び出しており、外側が一番小さくなります。閉じた時に3色の本文用紙、ピンク色・黄色・緑色がグラデーションになります。
今回は弊社で製本を担当させていただいている『疾駆』シリーズのご紹介でした。
栄久堂では規格外の本や変わった装丁のご要望をいただくことが多いですが、難しいデザインや仕様も、頭をひねりながら形にしていきます。
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