栄久堂について

専務取締役

佐藤 丈幸

Tomoyuki Sato

 

常日頃から多くの本に囲まれて仕事をしていると、本の良さとは何だろうと考えさせられます。今では多くのものがデジタル化され情報伝達されていますが、本との違いは何だろう、クリック一つで得られる情報に対して、あえて多くの人々の手を介し、修正に修正を重ね半年位の期間を掛けて作る本の価値とは何だろう、と考えさせられます。著者の想いではないでしょうか。著者の想いは、携わる多くの方々の手を介し、一つ一つの工程を踏んで読者に届けられるのです。だから、紙にはぬくもりがあります。私は小さいころから、製本工場で発生する紙くずの中でよく遊んでいました。時には紙くずの中で居眠りをしたこともあり、常に紙の温かさを感じていました。だから、読者も紙のぬくもりを感じながら一枚ずつページをめくっていき、一つずつ丁寧に著者の想いが伝わっていくのではないでしょうか。

本のかけがえのない価値、それは著者の想いを残し、そして伝えていくことだと思います。今の世の中には売るためだけの本として、如何に売るかばかりに焦点が当てられ、著者の想いやこだわりを残していこう、などという考えは踏みにじられているような気がします。しかし、本当は著者が残していきたい想いや考えを本に込めて後世に残す、そこに本、本来の姿があるように思います。読者は世代を超えて著者の想いに触れ、想いは世代を超え受け継がれていくのではないでしょうか。

大正十三年、佐藤栄造と久作という二人の青年は書物を後世に残す為、御皇室で保管されている傷んだ書物を直す事業を始めました。歴史の刻まれた書物を一つ一つ丁寧に手作業で綴じ直し、新たな歴史への架け橋を担っていました。その二人の頭文字を取り、「栄久堂」が誕生しました。

現在、紙はどんどん淘汰されています。しかし、紙でしか表現出来ない、紙だからこそ伝わる事があります。だから、あえて紙を選びます。かつての栄造と久作が次世代への架け橋を担ったように、現代の熱く深い想いを紙に載せて、後世に伝えます。